司令塔 町田瑠唯 162㎝
配信「160cm以下はとったことがない」女子バスケ超強豪校に“156cmで入学→全国3冠”の快挙…ある代表選手の軌跡「小さいことを言い訳にしたくなかった」
女子バスケ日本代表でも一際小柄な身長が目に付く富士通レッドウェーブの町田瑠唯。小さくても活躍できる秘訣はどこにあるのだろうか? photograph by JMPA
女子バスケットボールWリーグで現在20勝2敗と首位を独走し、プレーオフ進出を決めている富士通レッドウェーブ。昨季は16年ぶりのリーグ優勝を果たし、今季もすでに皇后杯を制すなど、圧倒的な存在感をみせている。そんなチームをアグレッシブなプレーで牽引するのが司令塔で、昨夏のパリ五輪に女子日本代表として出場した町田瑠唯だ。162cmと小柄ながら活躍を続けるエースの原点を聞いた。《NumberWebインタビュー全2回の1回目/つづきを読む》 【衝撃写真】「身長差がエグすぎる…!」パリ五輪で奮闘する町田と30cm差のアメリカ選手のマッチアップ…Wリーグの強豪・富士通での「超キラーパス」も写真で見る バスケットボールの世界最高峰NBAで今、メンフィス・グリズリーズと2Way契約を結ぶ河村勇輝が、絶大な人気を得ている。 スピードあふれるプレーやボールハンドリング、視野の広さなどプレースタイルはもちろん、2m台の選手が当たり前のNBAで172cmと小さな彼が懸命にプレーする姿がファンの心を惹きつけて離さない。 「いや、もう素直にすごいなと思いながら見ていますね。男子と女子では違う部分もあるので一概に比較はできないけれど、『ここも(パスを)通せるんだ』とか『こういう時にこのスペースを使うんだ』とかいろいろ考えながら見ています。それを女子でも生かせるかといったらわかりませんが、『そういうチャンスがあるんだ』とか『そこも選択肢に入るんだ』というひらめきは河村くんのプレーから学んでいますね」
東京五輪銀メダルの立役者だった町田
「河村君と自分を比べようとも思わないし、レベルが違う」と謙遜するが、162cmの小柄な町田瑠唯がコートを駆け回り、相手を翻弄する姿もまた見る者をアッと驚かせ、そしてワクワクさせる。 「そう言ってもらえるのが一番うれしいですね。見ていて楽しいバスケをしたいといつも思っていますし、ファンの皆さんをワクワクさせられるような選手、チームであり続けたいと思っているので。だから自分自身もバスケを楽しむことを一番大切にしているんです」 バスケットボール女子日本代表が銀メダル獲得の快挙を成し遂げた21年東京五輪で町田は全6試合に先発出場し、計75アシストを記録。準決勝のフランス戦で大会最多記録の18アシスト。アメリカとの決勝では75-90で敗れたものの、身長差41cmの相手センターとのマッチアップにも臆せず戦い脚光を浴びた。 小さな司令塔は、華麗なパスでチームを引っ張り、世界中にその名が知られるようになった。 「実は東京オリンピックの前にSNSのDMで『小さくてバスケを諦めました』というメッセージをいただいたんですが、そういう人たちに小さくても通用するということを証明したかった。それが少しでも勇気になればうれしいし、何か伝わるものがあればいいなという思いでした」 162cmと小柄だがコート上ではそれを感じさせないほど抜群の存在感を見せる。“パスの魔術師”と呼ばれる高度なパス、広い視野を生かしたトリッキーなプレイメイクやスピード、類まれなセンスで真っ向勝負を挑んできた。162cmという身長は確かにバスケットボール選手としては低い方だ。 だが、当の本人はそれをハンデだと捉えたことは一度もない。 「背は大きい方がもちろんいいですし、私も180cmを目指していたので幼い頃は伸びる気まんまんでしたよ(笑)。牛乳は好きじゃないからあまり飲まなかったけれど、高校時代は背を伸ばすためにひたすらぶら下がったりもして。 ただ、たとえ試合のメンバーに選ばれなかったとしてもそれが身長のせいだとは一度も考えなかったですね。選ばれないのはそれ以外に理由があると思っていました。どんな場面でも身長が低いことを言い訳にしたくなかったし、それは今も同じ。逆にこの身長だからできることもある、そうポジティブに考えていました」
小さいからこそ…「他とは違うことをやろう」
決して両親や指導者に促されたからそう思うようになったわけではない。気づいたときにはすでにそういうマインドでバスケと向き合っていた。 「そもそも負けず嫌いなんです。だから、やられたらやり返すために自分で工夫したり、次はこうしてみようというアイデアは常に考えていました。その繰り返し。他の人とは違うことをやろう、工夫しようという思考は自然と身についていたんだと思います」 その原点は、強豪・札幌山の手高校時代までさかのぼる。 入学当時、町田の身長は156cm。同校は「160cm以下の選手は過去に入部したことがない」と言われていた――。 <次回へつづく>
(「バスケットボールPRESS」石井宏美 = 文)
女子バスケ日本代表でも活躍する富士通レッドウェーブの町田瑠唯。W杯以降の男子バスケの盛り上がりに思うことは?
女子バスケットボールWリーグで現在20勝2敗と首位を独走し、プレーオフ進出を決めている富士通レッドウェーブ。昨年は16年ぶりのリーグ優勝を果たし、今季もすでに皇后杯を制すなど、圧倒的な存在感をみせている。そんなチームをアグレッシブなプレーで牽引するのが司令塔で、昨夏のパリ五輪に女子日本代表として出場した町田瑠唯だ。162cmと小柄ながら日本でもトップクラスの活躍を見せる町田の目指す先とは?《NumberWebインタビュー全2回の2回目/最初から読む》
バスケの名門・札幌山の手高校時代。町田瑠唯はインターハイ、国体、ウインターカップで3冠を達成している。だが、当初父からは同校への進学を反対されていた。
入学時の身長は156cmと、160cmにも満たなかった。当時、同校は「160cm以下の選手を過去にとったことがない」という情報も耳に入っていた。たとえ入学できたとしても試合に出られる保証はない。父はそれを心配していたのだ。
「3年間試合に出られない可能性もあるけど、『それでも行くのか?』と父に言われました。でも、私はとにかくチャレンジしたいという気持ちが強くて。もちろん中学時代には届かなかった全国優勝も果たしたかったですし、上島(正光・監督)さんから指導も受けたかった。『絶対に試合に出るから』と押し切って、最後は父も送り出してくれました」
「まずは自分たちが楽しまないと」
高校時代はチームの指揮を執る上島から得た学びも大きかった。
ポイントガードとしてはもちろん、いちバスケットボール選手として大切なものを学んだ。そんな札幌山の手高校で過ごした3年間は、紛れもなく町田の原点でもあり財産になっている。
「自分で考え、自分で学ぶことの大切さはもちろん、本当に多くのことを学びました。なかでも、私の根底にある“楽しむ”ことは、上島さんがよく言っていたことなんです。勝つことを意識するのは大事だけど、見ている人を楽しませるためにはまずは自分たちが楽しまなければいけない、と。その言葉を考えながら今もプレーしていますし、何かあったときにはその言葉で原点にすっと戻ることができますね」
Wリーグでは毎シーズンのようにアシスト1位を記録し、その実力は誰もが認める。
正確かつ速いパスで味方の得点チャンスを大きく広げ、シューターらは町田のパスを絶賛。誰がどう動いてどこでボールをもらい、どのようにシュートを決めるのか。町田が戦術を理解し、正確に遂行しているからこそなせる業だ。
「自分はすごい選手じゃないので」と決して目立ちたいタイプではない。縁の下の力持ち的な存在でいられればというスタンスでこれまでバスケを続けてきた。自分の得点よりも、まずは味方を生かす意識が強いパスファースト。近頃は「自分が周りを生かす」よりも、「周りに生かされている」と感じることとが多い。
「自分中心にはあまり考えられないタイプで、常にチームのことを先に考えています。チームが良くなるためには自分がどんなプレーをすればいいのか。どういう選択をするのがよいのか。その中で私自身はみんなの持ち味を引き出したいし、生かしたいと考えています。でも、結果的に生かされているのは私の方だなと思うんです」
アメリカ武者修行で感じた成長
一昨季には女子バスケ世界最高峰の舞台WNBAのワシントン・ミスティクスでのプレーも経験した。レギュラーシーズン36試合とプレーオフ2試合を含めた38試合すべてに出場。約4カ月間、Wリーグでも怪我以外で休むことのない鉄人はアメリカでもコートに立ち、タフな環境で戦い抜いた。
「想像以上にシビアな世界だと感じました。いつ契約を切られるかどうかわからない状態でみんな練習に来るので、練習の取り組み方一つをとってもすごく意識が高かった。日本では味わえない危機感のようなものも抱きました」
「コート上ではこれまで出せていたパスも、スペースがなく出せなかった」など、決して思うようなプレーができたとは言えない。それでも新しい世界に飛び込みチャレンジし続けた経験はかけがえのない財産になった。「チャンスがあればまたトライしてみたい」というWNBAでの日々は、間違いなくWリーグでのプレーにつながっている。
「日本とは違うパスの出し方を学び、トライできたことは大きかったですね。パスの精度や狙うところはアメリカに行ってより幅が広がったんじゃないかと思います」
富士通は2023-24シーズン、Wリーグで16年ぶりに優勝を果たした。町田は在籍13年目にして初の栄冠。「やっと恩返しができたと思う」と直後、涙ながらに感謝した。
「今まで積み重ねてきたバスケを最後にいい形で出せたなと思います。チームで守り、チームで攻めるという全員バスケ。その意識統一を徹底できたことが優勝につながったと思います。その中でも優勝経験のある3人の存在が頼もしかったです」
宮澤夕貴、中村優花(※昨季で引退)に続き、昨季はENEOSから林咲希が加入。優勝経験者の3人が、チームとして何をすべきか、優勝のために何が必要かを伝えてくれたことが大きかったという。町田自身も彼女たちの言葉を信じ、前に進めたと振り返る。
皇后杯で17大会ぶりの復活優勝
今季も開幕から好調で、12月の皇后杯では17大会ぶり4度目の優勝。
決勝では第4クォーター終盤までアイシンがリードしていたが、残り3分18秒で逆転と土壇場で底力を見せた。町田はチームが着実に成長していることを実感している。
「去年以上に一人一人が自信を持ってプレーできていると感じます。プレーに迷いがなくなりました。たとえば、シュートシーン。以前ならチャンスがあっても『ここは私じゃない』とパスを回していた選手も、今季はチャンスがあれば打つという姿勢で挑んでいる。
ゴールに入っても入らなくても、その気持ちが成長だと私は思っているので。それに、これをやれば勝てるということをしっかりと実行している。ここまでチームがブレずに維持できているのは、ベテラン選手の存在はもちろん、中堅の選手が引っ張ってくれていることが大きいです」
優勝した皇后杯でベスト5にも選ばれた内尾聡菜は、大黒柱の町田や宮澤と同等のハイパフォーマンスを見せた。決勝では10得点を挙げ、12リバウンドのダブル・ダブルを達成。それ以外の試合でもここ一番の大事な場面でシュートを決め、精神的な強さを見せた。
「もちろん要所は自分がという部分もありますし、背負っている責任も大きい。でも、みんなが自信を持ってプレーをし始めたからか、たとえうまくいかなくても『みんながいるから大丈夫』という安心感もあって。ある程度、みんなにも任せるようにもなりました」
周りの成長とともに町田の心境にも変化が生まれている。
昨季、左足首の怪我のためチームから離脱したとき、町田の穴を埋めるべくプレーする中堅や若手選手たちの姿を見て、「十分に戦える」と手応えを感じたという。だからこそ、怪我が治ってコートに戻ったとき、彼女たちが同じようにプレーできるよう、「自分がゲームメイクしていけばいいんだな」と町田は試合をコントロールすることを心掛けてきた。それがいい方向へと繋がっている。
ただ、一方で「これが完成形ではないし、ディフェンスもオフェンスもまだまだ質を上げていかないと。まだいい時と悪いとき、1試合通しての波もあるのでそれは改善していかないとこの先の戦いが苦しくなる」と気を緩めない。
今季の目標はもちろん昨年に続くリーグ連覇。シーズンも終盤戦にさしかかり、3月下旬からはいよいよプレーオフが始まる。
「うちのチームには“スーパースター”と言われるような選手はいないけど、選手それぞれが武器を持っていて、それをチームの強みにして、チームで守り、チームで攻めるのが魅力。そういうバスケが好きだったし、そういうチームを作りたかった。誰が見ても『チームで戦っているな』ということが伝えられたらなと思っています」
「女子もあんな風になるにはどうしたら…」?
2023年のワールドカップ以降、男子バスケが盛り上がりを見せている。
NBAでは八村塁、河村勇輝らが活躍し、Bリーグは昨季、過去最多入場者数を記録。今季からはNBA経験のある渡邊雄太が千葉ジェッツでプレーし、全国各地のアリーナでにぎわいを見せている。
「女子もあんな風になるためにはどうしたらいいんだろう……ということはよく考えますね。まずは女子バスケを見てもらわないと始まらないので、興味を持って見に来ていただく機会を作らないと。一度見てもらえたら、“面白い”“また見たい”と思ってくれる方はきっと多いと思うので」
Bリーグにも負けないアグレッシブな戦いで、町田がWリーグを熱く盛り上げる。