バスケU15王者となった四日市メリノール中
バスケU15王者となった四日市メリノール中 「バスケ界の大谷翔平」を育てる熟慮とは?
山崎HCはメリノール中に赴任して5年目のベテラン 【(C)JBA】
Jr.ウインターカップ2023-24 2023年度 第4回全国U15バスケットボール選手権大会(以下ジュニアウインター)は1月8日に男女の決勝戦を行った。男子は四日市メリノール学院中(三重)、女子は京都精華学園中と、いずれも「私立中」が大会を制している。
第4回を迎えるジュニアウインターは中学の部活、クラブチームが垣根を越えて対戦する全国大会。第1回は秋田市立城南中、第2回はGOD DOOR(街クラブ)、第3回はライジングゼファー福岡U15(Bユース)と三者三様の王者が過去に誕生している。
そして、ここから巣立った選手が高校バスケのウインターカップでも活躍する大きな流れがある。例えば男子は第1回大会で無限NO LIMIT GUNMAを準優勝に導いた川島悠翔が、同年末に福岡大大濠の全国制覇に貢献。現在オーストラリアのNBAアカデミーでプレーし、23年2月には17歳にして日本代表候補にも選出されている。昨年12月末のウインターも崎濱秀斗(福岡第一)、渡邉伶音(福岡大大濠)、瀬川琉久、佐藤凪(東山)、平良宗龍(開志国際)といった『ジュニアウインター卒業生』が目立っていた。
今大会も今までと同様……いやそれ以上の逸材が顔を揃えていた。特に圧巻だったのが大会を制した四日市メリノール学院中の逸材たちと、山崎修ヘッドコーチの手腕だった。
メリノールが中学二冠を達成
メリノールは準決勝でGYMRATS(静岡)を81-49で退けると、決勝も京都精華に68-48と快勝した。23年8月の全国中学生大会も制しており、中学生年代の二冠を達成している。
メリノールには23年9月の「FIBA U16アジア選手権大会2023」に出場した選手が3名いる。それが白谷柱誠ジャック、本田蕗以、中村颯斗で、高1と高2の早生まれが主力のチームに下の世代から参加していた。今大会は白谷がセンター(C)、本田がパワーフォワード(PF)、中村はシューティングガード(SG)でプレーしている。
彼らは先発5名のうち「最小」の中村が178センチというスケールの大きなチームで、しかも全選手がプレーに関わる、ボールに触る、得点に絡むスタイルだった。
山崎HCは大会中にこうコメントしていた。
「才能のある子供たちなので、小ぢんまりして勝つのではなくて、堂々とこの子たちの能力を生かしたプレーで、高校に受け渡したい」
ポイントガード(PG)の櫻井照大が起点といえば起点だが、とはいえ潰しどころがまったくないチームだった。例えば本田は190センチの大型選手だが、ガードのようなボール運びをしつつ、3ポイントシュートも積極的に打っていく。スモールフォワード(SF)の藤原弘大も含めて5人がプレーに関わる全員バスケだった。
白谷と櫻井は三重、本田は長崎、中村と藤原は兵庫から入学した選手だが、まずこのレベルの才能が一つの中学に揃ったことが稀有だろう。また「入学するまでシュートは苦手だった」という中村がシューターとして活躍したように、メリノール中は選手をその先のカテゴリーで通用するオールラウンダーに育てている。
「個人で打破する力」を持つ大型選手
中村颯斗(写真左)はシュート力を生かしてチームの得点源となった 【(C)JBA】
山崎HCは福岡県内の中学校で男女ともハイレベルの実績を残し、同県の選抜チームも長く受け持ってきた63歳のベテラン指導者だ。彼はこのようなポリシーを口にする。
「形でプレスブレイクやオフェンスを教えるのではなくて、個人で打破する力を付けないと、体格に劣る日本人選手は育たない」
190センチは中学生年代なら大型だが、プロや代表に行けばガード、ウイングとしてプレーするサイズ。中学で勝つことだけを考えるなら不要でも、上を目指すなら個人で打開するスキルはいずれ必要になる。
全体練習の後にそれぞれが行うシューティング(シュート練習)も、決して生徒任せにしない。
「僕は一番に体育館に行って、最後に出ます。単身赴任ですから。僕が子供より早く体育館を出ることは、用事があるとき以外ありません。シュート練習が一番大事で、指導者が『シュートを打っておけ』と言って、教官室に行くようではいけません。一番いいスタンス、いいフォームでシュートを打たせないとダメです」
決勝は先発5名が全員二ケタ得点を決めているが、メリノールはどの試合も「全選手が均等にスコアする」チームだった。
PGの櫻井は自身のプレーメイクについてこう説明する。
「その日一番調子がいい人にボールを集めて、あと流れの悪いときは一旦ジャック(白谷)が安心できるので預けます。ただボールが来ないと怒る子もいますね(笑)」
メリノールを苦しめたNOSHIRO
指揮官が伝えているのはこの競技の「原理原則」だ。山崎HCはボールを持つ選手、持たない選手の判断について、シンプルな用語でこう説く。
「空けば打つ、抜けられれば出る、(相手の守備が)出てくればキックアウト、ローテーションしたらエクストラパス……です。あと走って苦しいことをしたら、バックコートからの走り出しを一生懸命したら、ワイドオープンでもらえる。そうやって自分でチャンスを作った選手が、いい思いをするバスケットをしたい」
メリノールのオフェンスはそれぞれの自由度が高く、ボールを持った選手が判断をするスタイルだ。一方で原理原則が身についているからこそ、ボールがシェアされながらも滞りなく動き、全選手が得点に絡む状況になっていた。
そんなメリノールを苦しめたチームもある。2回戦、3回戦とも40点差以上で勝利したが、準々決勝のNOSHIRO BASKETBALL ACADEMY(秋田)戦は76-69の接戦だった。前半を33−41とビハインドで終え、スリーポイントも入らない苦しい展開だったが、後半に守備がアジャストして逆転する内容だった。
NOSHIROは1回戦でZIPS BASKETBALL ACADEMY(群馬)、3回戦でボンズ茨城とアフリカ人留学生がいるチームを一ケタ点差の接戦で退けたチーム。メリノールより試合数が1つ多く、そこに至る対戦相手もタフだった。サイズや個々のスキルはメリノールと同レベルで、193センチの千田健太、189センチでU16代表の高橋歩路といった逸材がいた。今思えばNOSHIROも同格のレベルで、メリノールの準々決勝は「事実上の決勝」と言い得るカードだった。
大器・白谷の未来のために
逸材の中でも「目玉」が白谷柱誠ジャックだ。先発でも唯一の2年生だが、中1からメリノールの主力で、山崎HCが「去年も一昨年も、ジャックなくしては全中を取れていません」と断言するキーマン。U16のアジア選手権でも日本代表のセンターを任され、最年少ながらチーム最長の出場時間を記録している。
白谷は国際大会から得たものをこう振り返る。
「国際大会の相手は日本と比べ物にならないほどレベルが高いので、それを踏まえて練習することによって、自分の力をつける、将来を広げる部分につながりました」
今大会の初戦はベンチ入りから外れたが理由は発熱の伴う体調不良。山崎HCが「もう(熱は)下がっているけど、無理をさせられない」と説明したように大事を取った結果だった。大一番のNOSHIRO戦から復帰すると、そのまま決勝戦まで3試合プレーして優勝に貢献している。
ベテラン指揮官は「選手にケガをさせたくない」と繰り返し口にしていた。コンディションが十分でない中で無理をすると、ケガのリスクはどうしても上がる。仮に大きなケガをすれば、成長のための時間が奪われることになる。
「怪我をさせると、コーチとしては負ける以上に嫌です。生徒は地道なトレーニングを嫌がるし、シュート打ったり、こんなこと(スキルのトレーニング)をしたいんですけど、(地道なメニューが)この子たちのためかなと思っています。(予防、補強のトレーニングは)ストレッチから入れると4〜50分かけます。それにそういうトレーニングはリバウンドなどのパフォーマンスに生きます」
白谷は朝練にも参加させていない。理由は回復、成長のための睡眠を優先して考えているからだ。白谷は現在194センチの登録だが、この競技は「あと何センチ伸びるか」でプレーヤーとしての価値が変わる。
「自由参加ですしバス通学、電車通学があるから遠い子はさせません。ジャックも昔はさせていたけど、大きくさせないといけないですから」(山崎HC)
「真のキャプテン」と言い得る人間性
福岡県の選抜チームでは比江島慎を筆頭に、後の日本代表やBリーガーを見てきた山崎コーチだが「中学の今の段階なら、ジャックが一番いいかもしれません」と口にする。
「久しぶりの、いい選手です。渡邊雄太に劣らず頑張る気持ちがあるし、それでいてチームを引っ張る気持ちや、茶目っ気もある。『大谷翔平』にしたいと思っています」
ジュニアウインターの白谷は良くも悪くも「渋い」プレーに徹していた。
「本当はジャックにボールを入れたほうが確実に勝てます。でも今は色んな選手にシェアしたい。それにジャックは『縁の下のジャック』で、サムライのようなところがあります。今は上級生にオフェンス力あるから、ブロックとかリバウンドに徹しようという気持ちも彼は持っている。ジャックが一番真面目で、真のキャプテンです。自分がマスコミに取り上げられたり、アンダーに選ばれたりしても、チームメイトのことを思える奴です」
白谷は3試合すべてで二ケタ得点・二ケタリバウンドの「ダブルダブル」を達成している。決勝戦も12得点、15リバウンド、7ブロックとインサイドの攻防で大きな貢献をしていた。ボールへの反応の鋭さ、一瞬の加速、ジャンプ力といった天性は明らかで、スキル的にもオールラウンドだ。ただ1対1、ダンク、3ポイントといった「映える」シーンにはあまり絡まず、主に守備やリバウンドで貢献していた。能力に加えて、その献身性が伝わってくる大会だった。
「大人」に近いプレーを見せる
大会を視察していた日本バスケットボール協会の東野智弥技術委員長は、メリノールの戦いをこう評する。
「目標、夢が高くないと、ああならないのではないかと思います。以前から私は日本のバスケットは早い段階から熟練した選手を増やしていかなければいけないと言っています。例えば(14歳11カ月でプロデビューした)リッキー・ルビオや(16歳2カ月でプロデビューした)ルカ・ドンチッチは正しくそうじゃないですか。そういうチームが出てきたことが、私としては嬉しいです」
河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)のように若くしてチームと日本代表のエースを任される選手が出てきているとはいえ、日本のバスケは長らく成長の遅さが課題だった。早い段階から「大人のバスケ」を身につけさせることが、ブレイクスルーのために必要だ。オプションを「その時点で確実にやれること」に絞って、型にハメてプレーさせたほうが中学だと結果は出やすい。しかしメリノールはスキルセットの多い選手が揃い、各々が自分の考えでプレーしていた。
もちろん各選手に課題はあり、将来の成功が約束されているわけではない。山崎HCも決勝後の取材でやんわりと「持ち上げ過ぎ」に釘を刺していた。とはいえキャリアの途中経過として理想に近いものを、彼らはコート上で表現していた。
私立中がU15年代の王道に
今大会の決勝戦は男女とも私立中同士の対戦だった。教員の過大な労働時間を是正する「働き方改革」が急務となる中で、公立中はバスケに限らず本気で競技に打ち込みたい子の受け皿とはならなくなっている。
またBリーグは「B革新」でドラフト制度導入を打ち出しており、ユース出身者もドラフトを通過する案の採用が濃厚。となるとBユースは投資としての意味が消え、育成に力を入れるクラブは大きく減るだろう。街クラブにも練習環境、費用の問題がある。そういった中でメリノールのような私立中がエリート育成のメインルートとなっていく可能性は高い。
実際にメリノールの主力選手は櫻井と本田が福岡大大濠、中村は東山という具合に、全国トップの強豪校に進学する。
Bリーグという魅力的なステージが誕生し、男子の日本代表はパリオリンピック出場を決めた。渡邊雄太、八村塁といった日本人NBAプレーヤーも活躍している。そのような中で選手、指導者の目線は「先」「上」を向くようになっている。
もちろん勝利を目指す過程も大切な「育成」「人間教育」だが、中学生年代の勝利は未来の可能性を削ってまで追求するものでない。四日市メリノール学院中は逸材が集まっているだけでなく、選手としての可能性を広げる取り組みができている。日本バスケの育成を考える上で、間違いなくお手本となる存在だった。