高校バスケ「福岡県勢」強さの理由とは?
リクルートとチーム作りの妙もある。 両校ともに全国から有望な選手が集まってくる。より広範囲という意味では福岡大学附属大濠のほうがやや上回っているだろうか。しかも同校には中学時代に有望だった、比較的サイズの大きい、それでいてオールラウンドにプレーできる選手が集まってくる。片峯コーチの下でそうした選手たちが成長し、大学やBリーグで活躍する姿が、また次のオールラウンダーを呼び込んでくるわけである。 一方の福岡第一は、サイズこそ留学生に頼るところもあるが、同校のベースはポイントガードにある。小さいけれども機動力があり、運動量も豊富、得点能力も高い。2016年度の重富友希・周希の「重富兄弟」がそうであり、昨年度の河村&小川麻斗もそうだった。彼らを攻守の起点として、常に前へ、前へと進んでいくスピーディーなバスケットは見る者を魅了する力がある。井手口コーチは若い頃「県立能代工業のバスケットの真似をした」と言うが、まさに往年の県立能代工業のバスケットを見るような、そこに高さも加えた進化するトランジションバスケット――攻守の切り替えが速いバスケット――を築いている。 もちろん福岡大学附属大濠にも優れたポイントガードは多い。卒業生でいえばレバンガ北海道の橋本竜馬や、川崎ブレイブサンダースの青木保憲、アルバルク東京の津山尚大、筑波大学の中田嵩基らである。そのうち橋本や中田、今年のポイントガードである平松克樹はいずれも福岡県出身。上記の重富兄弟、小川麻斗もそうだ。 ここにもう一つの福岡県の強さがある。 つまり福岡県のミニバスケット(小学生)と中学バスケットは指導者の質が高く、身長が高くない選手であってもガードとして生きる道筋を、それぞれの年代できっちりと教わっている。それが西福岡中学の鶴我隆博コーチであり、近年では元プロバスケットボールプレーヤーの青木康平氏も福岡でクラブチームを立ち上げ、育成に取り組んでいる。 ポイントガードは「チームの司令塔」とも呼ばれ、一朝一夕で育てられるものではない。「経験のスポーツ」ともいわれるバスケットのなかでも、育成に一番手間ひまをかけなければならないポジションかもしれない。それを幼いうちから伝えられた選手たちの進路として、福岡第一と福岡大学附属大濠がある。片峯コーチはこう言っている。 「悪い面もあるかもしれないですけど、福岡県はちょっと古風な指導形態が定着しているところがあります。ただ今年のポイントガードである平松もミニバスから相当厳しい練習をしてきて、だからこそ、自然に負けず嫌いだし、歯を食いしばって頑張れるし、目の色を変えてボールを追えるんです。そういう魂をジュニア期に注入されている選手は多いですよね」 将来を見据えて、若いうちはスポーツを楽しむことから指導しよう。近年はそうした風潮が強くなっている。それはけっして悪いことではない。むしろ多くの子どもにはそうあるべきだ。しかしそうではない指導法で育つ子どもも、少なからずいるはずだ。厳しい練習の中でもバスケットを楽しみ、考えられる力がつけば、それは彼らの未来につながっていく。十把一絡(じっぱひとから)げにしてはいけない。少なくとも福岡第一と福岡大学附属大濠を牽引してきたポイントガードたちの多くは、そうしたなかから生まれてきた。 福岡県の強さは絶対に負けられないライバルがいて、そのいずれもが、それぞれのカラーで真っ向勝負をするところにある。そうした選手をジュニア期から、県協会としての方針ではなく、負けず嫌いな指導者たちが全力で育てていく。そこに全国各地から多才で、有望な選手が加わることによって、太い幹がより太くなっていく。 高校バスケットは人生の“通過点”かもしれない。しかしながら、その通過点を勝利にこだわって、懸命に過ごすことで開かれる未来もある。
高校バスケ「福岡県勢」強さの理由とは?
根付いたミニバス文化と「ちょっと古風な」指導
サイズの大きいオールラウンダーと、小さなポイントガード
育成は十把一絡げにしてはいけない