コーチインタビューその5 木下コーチ
ダンクス・コーチ陣へのインタビューシリーズですが、いよいよ今回が最終となります。お話を伺うこちらも、コーチの皆さんのバスケへの考え方だけではなく、バスケを通じて学んだこと、一つのことに打ち込むことで見える世界など、非常に多くのことを学ばせていただくことができました。
第五回、今回登場いただくのは頼れる兄貴、木下コーチです👏👏👏。子供たちにバスケを通じて学んでほしいのは、自分で考えて答えを見つけること、というご自身の哲学がとても心に響くインタビュー、お楽しみください。
【ご自身のプロフィールを教えていただけますか?】
●日本体育大学、児童スポーツ教育学部の4回生です。花田コーチと同じ学部ですね。小学生が対象の学問ですが、子供の発育期の中でも、特に小学生は学問だけでなく心身ともに自己形成の上でとても重要な時期になります。他の教育学部と同じように国算理社の義務教育プログラムに加えて体育、スポーツに特化したカリキュラムを学んでいます。
体育も、大きくは運動と保健に分かれるのですが、保健は中学からなので小学校では実技が中心になります。自分の体をコントロールする運動実技に加えて、栄養と身体の発達、怪我の処置など。それから、心技体で大事なメンタル(児童心理学)も含まれます。
●元々運動好きだったのですが、最初は高校の体育教員になりたいと考えていました。ただ、教育とは何か?という問いに自分なりに向き合って考えた時に、自分が本当にやりたいのは体育指導だけでなく生徒の人格形成に関わることなんだ、と気付いたんです。高校生では遅いとは言いませんが、まだ人として未成熟な段階である小学生に教えたいと思った、ということですね。これは実家が保育園、ということも影響したのかもしれません。
※保育園で子供と触れ合うのが楽しみ、という帰省時の一枚
●出身は、鹿児島県の最南端にある指宿市(いぶすき市)という港町⛵️です。すぐ後ろが山で、前には海が広がっている自然に囲まれた町で、高校卒業までそこで育ちました。映画の『崖の上のポニョ』を観られた方は、その舞台となった広島県の鞆の浦をイメージしていただけると近いかもしれません。世田谷区よりもっと小さくて、極端な話「下馬」くらいのサイズ感です。
ちょっとした小ネタですが、インスタントラーメンの日清どん兵衛で使われている粉末の鰹節は、地元の工場で作られています。今度どん兵衛を食べられることがあれば、お、これが指宿か、と思い出していただければ🤗
【子供の頃の木下さんについて教えてください】
●いやもう、それはやんちゃな子供でした😆 どちらかというと野球、バスケ、サッカーなどのスポーツよりは、道が整備されていない山を駆け回ったり、住宅地でも壁に上ったり屋根の上を走ってみたり。今でこそクロスカントリーやパルクールという立派なスポーツになっていますが、当時はただただ親に怒られそうな遊びばかりやっていました笑
【バスケ選手としての経歴を教えてください】
●バスケ🏀は中学校から初めて、高校でもバスケ一本でした。小学生の時は6年間水泳🏊♂️で、高学年では陸上短距離🏃♂️も経験しました。どちらもタイムで全ての勝負が決まる、完全な個人競技というバスケとは全く異なる世界を経験できたのはプラスでした。
●バスケを始めたきっかけは父親の影響が大きいですね。父もバスケをやっていたのですが、高校では最初、地区最下位だったそうです。当時その学校ではスポーツを一生懸命やるのはダサい、という風潮があったらしいのですが、その中で良い意味での傲慢さいうか、よく言えばリーダーシップを発揮して、ボロ負けが当たり前だったチームを引っ張って3年後には地区トップを倒すまでにチームを伸ばすことができたという、映画『コーチカーター』を地で行くような話を聞かされていました。
自分たちがやってきたことを信じて何かを成し遂げる、夢を語って実現する。このチームで勝って伝説を残したい。大げさな言い方かもしれませんが、個人の思いをメンバー全員で共有して、目的を変化させていったわけです。
●父親が私に対してバスケを勧めてきたことはないのですが、彼が私に教えてくれたこと、その道をたどるツールがバスケだったというわけです。その意味でバスケは私にとってスポーツ種目というより概念に近い部分もあったので、結果的に自分がバスケを選んだのも自然なことだと思います。
※高校時代の写真。赤ユニフォームが木下コーチチーム
●あとは、その時期に漫画の『スラムダンク』と出会ったのも大きかったです。ご存じの方も多いと思いますが、あの漫画は単なるバスケの試合だけではなく、登場人物がバスケを通じて成長していく物語ですよね。各プレイヤーに自分の姿を投影し、アッという間に夢中になりました。
一番好きなプレイヤーは綾南のキャプテン、魚住です。魚住は不器用な縁の下の力持ちなんですが、人への伝え方が不器用で。でも相手のことを本気で考えて、口で言うよりも行動で見せてヒントをあげる。自分とどこか似ているところがあるな、と感じたのも含めてそういうところがとても好きでした。宮城リョータも大好きで、感情を爆発させる一方で、ガードに必要な冷静さと切り替えができる。今読んでもシビレますよね😊
【中高でのバスケ活動はどんな感じだったのでしょうか?】
●とてもリアルな話ですが、中学では地区下位から抜け出せない驚くほど弱いチームでした。地元で育った両親が中学生だった時の外部コーチがそのまま指導していたんです。バスケには時代に合わせた技術の進化、戦術やシステムがあるわけですが、ご想像の通り、昔からの教え方から変わらない古いスタイルだったと思います。
バスケを始めて間もない頃から、何となく自分のチームは地味だな、という印象を持っていました。基礎練習をしていても、これがバスケのどういう状況で何に役立つの?というのが見えなかったんです。例えばダッシュにしても、相手にフェイクを入れた直後にダッシュでギアを入れると抜ける、という「腑に落ちる」感じが欠けていたというと伝わりますでしょうか?
【具体的にそれを感じた出来事などはありましたか?】
●それを強く感じたのは、中学2年生の時に地区選抜選手で選ばれた時です。東京でいうと世田谷区選抜メンバーくらいの感じで、所属チームからは一人そこに選ばれました。当然、選抜チームでは地区中学校トップクラスのコーチが担当します。彼らが教える練習に、自分は全く付いていけない。自分はそれまで単純なパス、ドリブルの練習をしてきたのですが、彼らは得点を入れるための高度なチーム連係システムの「手段」としてパス、ドリブルを捉えている。ディフェンスもしかりです。
自分の中学に戻り、そこで教わった練習メニューを導入するようにコーチを説得しました。先ほど「得点のための手段」と表現しましたが、実際には、人類に火があるないでは違う、くらいのギャップだったんです。バスケとは?という視点が一気に広がった出来事でしたし、それは自分だけでなくチームにもとても大きな影響をもたらしたと思っています。
※中学時代、速攻レイアップを決める木下コーチ
【ダンクスの選手がここから学べることは何でしょうか?】
●一聴すると「いいコーチに教われ」という話に聞こえますが、そこではないんです。選手に伝えたいのは「自分が必要とするプレイ、技術は何なのかを常に考えてほしい」、ということです。そして動いてほしい。ハングリー精神を持っていれば、目の前にヒントが示された時に気付くことができますし、自分で見つけたものは理解できる。一方で、そうでない選手は目の前のヒントに気付かないわけです。先ほど魚住の話をしましたが、ライバルの赤木が試合で苦戦している時に魚住がヒントを与えるシーンがあります。漫画の中の話ではありますが、本当に集中していれば、それが試合中であってもヒントに気づくことはできると思います。
【木下さんがダンクスのコーチになられた経緯を教えてください】
●日体大には色んな近郊の小中高から部活動ボランティアの要請がくるのですが、3回生の夏休み前にダンクスのコーチ応募を見つけました。将来小学校でミニバスを教えたいと考えていたので、気楽な感じでおそるおそる伺ってみた、というのを覚えています🤗
【おそるおそる、ですか?】
●単純に、東京の世田谷区ということで、それまで自分が関わってきたバスケとは違う、価値観が全く異なる保護者の皆さんや子供たち、それからコーチがいらっしゃること、一言でいうとコミュニティーにどう溶け込めるか、「気楽におそるおそる」伺ってみた、と🤗
ただ、見学に伺う前からダンクスでお世話になろうと決めていました。自分の性格の話ですが、一旦関わったら何か気に入らないことがあったから断るというのはないんです。問題があれば逆に自分が働きかけて内側から良くしよう、という考え方で。
【実際のダンクスの印象はいかがでしたか?】
●コーチ、子供、保護者、この3者の関係が非常にオープンなことに驚きました。そして、彼らがやっているバスケがこんなに自由なんだ、ということにも驚きました。自分がやってきたバスケは、コーチが絶対的上位で、選手はそれに従う縦の世界だったのでそのギャップですね。このフラットな伸び伸びした感じは、本当に経験できてよかったことの一つです。
【ダンクスで教えていて難しいところや、こうしたい、というところはありますか?】
●正直、難しいところはないですね。ある意味、これは自分が理想としていたコーチング体制なんです。縦社会ではなく、一緒に同じ立場でチーム全体が上達していく。正解が見えなくてもいいんです。コーチがすぐに答えるのではなく、質問に質問で返して皆で答えを探すことの方が大事です。
こうしたい、という話でいうと、子供たちが自分たちの練習や試合の映像📺、プロの試合を見て考える習性をつけてほしいですね。そこから子供たちでミーティングして、自分たちに必要なモノは何か?シュート技術が足りないのか、リバウンドが弱いのか、パスが出せていないのか?それとも声が出ていない?これを自分たちで考えて答えを見つけてほしいです。
【コーチングで気をつけていることはありますか?】
●否定はしない、ということです。人としてやってはいけないことは別として、子供の疑問や行動に対して間違っている、という答えは返しません。まずは何故それが疑問なのかを聞いてみることが先なので、「指導より対話」という会話スタイルを心がけています。
【恒例の質問になりますが、最初に買ったバッシュを教えてください】
●最初のバッシュではないのですが、一足とても思い出深いシューズ👟の話があります。何足か履きつぶした4足目の時が、先にお話しさせていただいた地区選抜で選ばれた頃だったんですね。強豪選手揃いでスタメンが取れない中、ある試合での私のプレイをコーチが評価してくれて、次の試合でスタメンに入れたんです。これは、自分だけでなく、親、所属する中学からしてもなかなかすごい出来事だったんですが、その試合の後に父親が「これ、開けてみろ」といって箱🗃をくれました。
その中には当時のバスケマンでは知らない人がいないアシックスの最高のバッシュ「ポイントゲッター」が入っていました。特別な皮、パープルのライン、、、今でもよく覚えています。当時でも3万円以上したと思います。シューズそのものが嬉しかったのはもちろんですが、父親が認めてくれた、という部分も大きかったかもしれませんね。
【好きなバスケチーム、選手を教えてください】
●Bリーグで活躍している河村勇輝です。彼を見た時に、まさに自分のプレイスタイルだと思いました。今のバスケは身長よりもスピードやシュート力、判断力などの総合能力が必要とされますが、その点で彼は非常に上手いプレイヤーだと思います。
NBAの絶対的な人気プレイヤーから学べる点も多いのですが、自分に近いプレイスタイルの選手がどのような動き、技を使っているかという視点でバスケを見る、というのは役立ちますよ。
【話は戻りますが、栄養学を学ばれている中で、日常で気を付けている点などありますか?】
●自炊の和食中心で、味噌汁は必ず毎日摂っています。栄養と体は表裏一体なので、何を摂るかの重要性は機会があれば皆さんにお伝えしたいことの一つです。一般的に栄養の話だとタンパク質などバランスよく何を食べるかという会話になりがちですが、私自身は逆に「何を摂らないか」という視点を普段から持つようにしています。
例を挙げると小麦、牛豚、牛乳、マーガリン、コンビニ食品などですが、不要なものを落とすと必要なものが残る、ということになります。そもそもの話になるのですが、肌や髪の色や体格など、人は住んでいる土地や気候に合わせて進化してきた生き物なので、日本人であれば日本土着の食生活が最も適しているという考え方です。
●食生活に少し気を使うだけで、体の軽さ、肌のコンディション、寝つきや寝起き、便通などが改善します。スポーツ選手に限らず、外見や喉などのコンディションに気を使う芸能人や歌手でもGACKT、福山雅治とか、こういう考え方で健康管理されている方も多いです。バスケ選手も一流になると必ずコンディション管理していますよね。
※昨年開催された、ダンクス保護者に向けた栄養学セミナー
●自分自身ではワークアウトというよりは、老廃物を出すためのエクササイズ、というイメージで運動しています。腕立てやスクワットなどの激しい運動🏋️♀️ではなく、ヨガやピラティス🧘♂️みたいな感じですかね。要はコンディション作りに集約されるのですが、バスケではドリブルやディフェンスの姿勢=どれだけ自分の思った通りに体が動くか、このために普段からできることは結構ありますよ。
【来春から先生になられますが、生徒にはどんなことを教えたいですか?】
●一番大切にしたいのは人格形成です。子供たち一人ひとりと向き合っていきたいと思っています。勉強ができなくても、というと語弊がありますが、まずは一人の人として育てていきたいですね。
●誤解される表現かもしれませんが、ダンクスでは、子供は放っておいても勝手に育つということを学びました。いい意味でも悪い意味でも、こっちが指導した通りには育たない。そんな中でコーチがやるべきことは、信じて見守ることかな、と思っています。繰り返しになりますが、やはり子供たちが自分たちで考えて答えが出せるヒントを与え、環境を与えてあげることに尽きますね。
【バスケ以外で好きなものについて教えてください】
●革ジャンです😏 服が好きなんですが、その中でもこだわっているのが革ジャンで、今でも12-3着持っています。世間の流行りとか女子受けとかに関係なく、革ジャンが持つ「反骨精神」に惹かれるんですよね。パンクロック🎸もそうですし、ジェームスディーンやイージーライダー🏍もやはり革ジャン、というあのイメージです。映画『トップガン』が好きで、トム・クルーズが着ている革ジャンに自分でワッペンを買ってきてオリジナルに仕上げた一着が、一番のお気に入りですね😊
※お気に入りの革ジャン写真をお願いして出していただきました!
【最後になりますが、入部を検討されている保護者の皆さんにアドバイスをお願いします】
●各チームそれぞれ良いところがありますが、逆に他のチームでは成長できないようなところがダンクスでは成長できる、というのはお伝えしたいと思っています。試合に勝つためのバスケ技術だけではなく、人として成長することをとても大事にしているチームですので、気になった方は是非体験でいらしてください。
【木下コーチ、ありがとうございました!!】